DX人材とは?求められるスキルや採用・育成の課題解決ポイントを解説
昨今、IT技術を活用して社内のビジネス変革を促す、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に取り組む企業が増えています。DX推進をスムーズに推進し成功に導くためには、DX人材の採用や育成が必要不可欠です。
本記事では、DX人材が必要とされる背景や求められる職種・役割、必要なスキルやマインドセットなどについて詳しく解説します。将来的な自社戦略の策定や、社内の課題解決を進める際の参考にしてください。
目次
DX人材とは?意味と役割
DX人材とは、DX推進を担当する人材の総称です。社内の業務フローや製品・サービスを深く理解し、ITトレンドを把握して新システムを導入したり、IT技術を活用してビジネスの変革を促したりするために必要不可欠な役割を担います。
そもそもDXとは、「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」を縮めた言葉です。最新のIoTやデジタル技術を取り入れて社内を変革し、新たなビジネスモデルの創出を実現するための考え方を指します。
DX人材は、近年ではAIやクラウド、ビッグデータなどの技術を活用し、データ利活用を推進する役割を求められることもあります。このように、DX人材には、DXを推進するために必要なあらゆるスキルやマインドセットを身につけることが求められます。
DX人材が必要とされている背景
国を挙げてDX推進が推奨されている昨今、多くの企業がDXを積極的に推進したいと考えています。しかし、実際にはDX人材が不足しているためにDX推進が停滞している企業も多く、DX人材の確保が重要な課題となっています。
DX人材が必要とされている背景には、2025年の崖問題の克服や新型コロナウイルスによるデジタル化の急加速、経済産業省による「デジタルスキル標準」の策定などが挙げられます。ここでは、DX人材が必要とされている3つの背景について詳しく解説します。
2025年の崖問題の克服
2025年の崖とは、経済産業省がまとめた「DXレポート」の中で提唱されている、「日本企業が現在のままDXを推進しないと、2025年から5年間で、最大約12兆円もの経済損失につながる」という問題のことです。
2025年問題が起こる原因は、企業が古くから導入・運用しているシステムがブラックボックス化し、保守を担当できる人材が限られたり、社内のデータ連携が難しくなったりすることなどにあります。近年ではデータ利活用が必要不可欠な世の中になっているにもかかわらず、システムのレガシー化(老朽化)によってデータの利活用が進まない現場が少なくありません。
システムのレガシー化が深刻になれば、市場のトレンド変化や新たなIT技術に対応できず、企業としての競合他社との競争力も落ち込む原因になります。この問題を解決するために、企業はDX人材の育成や確保の必要性に迫られているのです。
新型コロナウイルスによるビジネスのデジタル化の急加速
2020年初頭に発生した新型コロナウイルスの影響によって、従来のオフィスワークから、リモートワークに切り替える企業が増加しました。これまでは「オフィスに通勤するのが当たり前」だった現場が、リモートワークを推進するために新たなIT機器を導入した結果、デジタル化が急加速し、DX推進の必要性を実感する企業が増加したという背景があります。
経済産業省が公表している「DXレポート2」によれば、2020年3月時点での都内企業(従業員30人以上)のテレワーク導入率はわずか24.0%でしたが、2020年4月時点では62.7%にも増加しています。このような結果を見ても、コロナ禍において企業のDX推進への意識は大きく変化していると考えられます。
経済産業省による「デジタルスキル標準」策定
経済産業省は、令和3年度に「デジタルスキル標準」と呼ばれる指針を策定しました。デジタルスキル標準では、「DXのためには、全てのビジネスパーソンがデジタルリテラシーを習得することが大切である」と述べられています。
このような考え方を前提とし、働く人々が一人ひとり積極的にDXに参画するために必要な知識・スキルやマインドセットを学ぶための指針として策定されたのが「デジタルスキル標準」です。
社会情勢やビジネス環境が目まぐるしく移り変わっていく中で、まずはビジネスパーソンがデジタルリテラシーを習得し、現場で働く一人ひとりがDXに関わっていけるための基礎を身につけることが重要であると考えられています。
DX人材に必要なスキルとは
DX人材としてプロジェクトを導いていくためには、ITの基本的な知識以外にも、プロジェクトマネジメントスキルや新規事業の企画・構築スキルなど、さまざまなスキルを身につける必要があります。ここでは、DX人材に求められる5つのスキルについて詳しく解説します。
1.プロジェクトマネジメントスキル
DXを推進するためには、プロジェクトマネジメントスキルが必要不可欠です。DX推進を達成するためには、社内に潜む課題を把握し、解決に導くための施策を検討する作業を繰り返す必要があります。発見される課題はその都度異なり、関係する部門やステークホルダーも幅広いため、プロジェクトチーム全体を円滑に回せるDX人材が求められます。
DXの最終目的は「デジタル技術を活用して、ビジネスを変革すること」であり、単にデジタル技術やシステムを導入するだけで完了するものではありません。中長期的な視点で取り組まなければならない施策であり、プロジェクトも巨大化しやすいため、DX戦略の策定や課題発見・分析、スケジュール調整、予算管理など、さまざまな要素を兼ね備えたDX人材を確保することが重要です。
2.IT関連の基礎知識
IT関連の基礎知識は、DX人材にとって欠かせない知識・スキルのひとつです。DX人材にはさまざまな職種があり、必ずしもシステムやサービスの開発に直接的に関わるとは限りません。しかし、DX推進の旗振り役としてエンジニアやプログラマーなどの技術職と調整する場面も数多くあるため、DX人材にとってIT関連の基礎知識はなくてはならないスキルです。
日頃からITトレンドに意識的に触れて最新技術を理解するとともに、国内や海外の活用事例も押さえておくとよいでしょう。また、最新のデジタル技術に関するメリットや、生じている課題などを理解しておくことで、自社のDX推進にも役立てられます。
ITトレンドの移り変わりは激しいため、今後のトレンド予想も押さえておくことをおすすめします。
3.UX・UIに関する知識
最新のデジタル技術を用いたシステムを導入したとしても、使いにくい画面設計であればユーザーに浸透せず、期待どおりのDX化を達成できない可能性があります。UX・UIに関する知識を十分に深めて、ユーザー目線で画面設計やサービス構築を行うことが大切です。
DX人材自身の視点だけでシステムの設計を決めるのではなく、ユーザーの視点に立って、どのようにシステムを設計すればユーザー体験が向上するのか、使い続けたいシステムになるのかを考慮することが求められます。
UX・UIの設計を主に担うのはUXデザイナーですが、デザイナーだけでなく、アーキテクトやエンジニア・プログラマーなど、さまざまな職種のDX人材が広く身につけておくべき知識です。
4.データサイエンスに関する知識
DX推進を成功させるためには、社内外のさまざまなデータを分析し、自社の課題解決のための意思決定に活用することが大切です。
AIやビッグデータによるデータ解析は、人間の知識や経験だけでは把握しきれない客観的な事実を明らかにできるため、自社に潜む思わぬ課題を発見する足がかりになることもあります。データサイエンスに関する知識を深めておくことで、DX推進をより効率的に推し進めて、自社の製品やサービス、技術力とデータとのシナジーを生み出し、市場における競争力を強化できます。
単にデータを収集・分析するだけでなく、分析後のデータをどのようにビジネスに活かしていくのかを定義するための、データマネジメントスキルも重要です。
5.新規事業を企画し構築するスキル
DX推進の目的である「デジタル技術を活用し、ビジネスの変革を促すこと」を達成するためには、自社の課題に適したデジタル技術を利用して、新規事業を企画し構築するスキルが必要です。
自社の課題を明確に理解し、実現しなければならないことや自社のDXの目的を明らかにした上で、自社に必要なシステムはどのようなものなのかを正確に把握する必要があります。現状課題をリストアップし、課題に優先順位を付けた上で、優先順位の高い課題から解決していきましょう。
新たな事業を企画・構築するためには、さまざまな関係者との調整力も欠かせません。関係部門やステークホルダーとコミュニケーションを密に取り、現場と認識を合わせて具体的な企画を進めていく必要があります。
IPAが分類するDX人材が求められる職種と役割
DX人材の職種と役割は多岐に渡りますが、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)によれば、主に6つの職種に分類されています。ここでは、IPAの分類に則って、DX人材が求められる7つの職種と役割を詳しく解説します。
※出典:デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査|IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)
1.プロデューサー
プロデューサーとは、DX推進を実現するために、プロジェクトを先導する役割を担う職種です。リーダーの立場で社内全体を俯瞰的に見渡し、自社に不足しているシステムを見極めたり、変革可能な業務を洗い出したりして、DX推進を統括します。
プロデューサーとして活躍するためには、単にIT技術のトレンドを押さえるだけでなく、経営的な視点を持ってDXを推進していくスキルが求められます。最新のIT技術を活用しつつ、自社の製品やサービスとのシナジーを期待した新たなビジネスモデルの創出や、既存のビジネスプロセスの変革を担うこともあります。
情報システム部門のリーダーだけでなく、最高デジタル責任者をはじめとした経営層が担当することも多いポジションです。
2.ビジネスデザイナー
ビジネスデザイナーとは、プロデューサーが策定したDX戦略に則って、さらにDX化を推し進めるための企画を具体化させる役割を担う職種です。実際の業務やビジネスモデルと照らしあわせて、現場の業務フローに戦略を落とし込み、現実的なビジネスプロセスを立案・推進します。
新システムの導入や業務フローの変革などによって影響を受ける関係部門との調整役を担う立場となるため、社内外と円滑なコミュニケーションを取る能力や、プロジェクトを円滑に進める調整力、折衝力が求められます。
プロデューサーが策定したDX戦略がDX化における大枠を作る役割であるとすれば、ビジネスデザイナーはその枠組みの中で実現可能な道筋を立てる役割を担います。
3.アーキテクト
アーキテクトとは、DX推進を成功させるために最新のデジタル技術を自社のビジネスに組み込む方法を探り、具体的なシステムを設計する役割を担う職種です。自社が抱える現状課題を分析し、課題を解決するためのシステムを考案、要件定義や設計を行います。
アーキテクトは設計を中心に担う職種であり、実際の設計は行わないのが特徴です。ただし、開発時にサポートとしての立ち位置から助言や提案を行うことはあります。
自社の課題を解決するという視点から、デジタル技術に対する詳細な知識だけでなく、経営者としての視点も求められます。自社の製品やサービスについて深く理解し、デジタル技術とどのようにかけ合わせれば最大の効果を得られるのかを見極める力が必要です。
4.データサイエンティスト・AIエンジニア
データサイエンティストやAIエンジニアは、AIやIoTをはじめとした、DX推進に取って重要な役割を果たすデジタル技術およびデータ分析に長けた人材を指します。既存のビジネスモデルにAIを組み込んで業務を最適化したり、これまでは実現が難しかった新たなビジネスモデルを創出したり、ビッグデータを解析してデータの利活用を推進したりします。
データを扱うプロフェッショナルとしての役割が期待されるため、統計解析や機械学習に関する深い知識とスキルが求められます。また、社内でデータの利活用を効率的に進めるためには、自社の製品やサービスを正しく理解し、どのようにデータを活用すれば利益を最大化できるのかも把握しておく必要があります。
5.UXデザイナー
UXデザイナーは、DX推進やIT技術を用いたビジネスで導入するシステムにおいて、操作画面などのインターフェースを設計する職種です。デザインを担当するにあたって、画面の見やすさだけでなく、ユーザーが操作しやすいシステムに仕上げることも求められます。
例えばECサイトで買い物をする顧客は、商品をカートに入れる、決済をする、気になっている商品を保存するなど、ECサイトを通じてさまざまな体験をします。この体験をどれだけ快適なものにできるかが、顧客満足度の向上に直結し、購入率の向上やリピーターの獲得につながります。
UXデザイナーが担当する画面設計は、ECサイトやWebサイトだけでなく、社内で利用する業務システムなども含まれます。
6.エンジニア・プログラマ
エンジニア・プログラマはアーキテクトが設計した設計書に基づいて、システムやサービスを実際に構築する役割を担う職種です。開発に使う言語は担当するシステムによって大きく異なりますが、AI関連の開発であればPython、統計分析であればRなどがよく用いられています。DX人材を育成・採用する際は、自社の目的を達成できる人材を定義した上で準備を進めることが大切です。
DX人材としてのエンジニアやプログラマは、DX推進自体が業務効率化や最適化、業務変革を目的としていることから、店舗・工場・物流などのシステムを担うケースが多いという特徴があります。したがって、ソフトウェアだけでなく、現場で使用しているハードウェアに関する知識も身につけておくことが求められます。
DX人材に求められるマインドセット
DX人材が活躍するためには、ITに関するスキルや知識はもちろん、リーダーシップや好奇心・主体性などのマインドセットも重要です。そこで、DX人材に求められるマインドセットについて詳しく解説します。
リーダーシップ
DX人材には、DXを推進するためのリーダーシップが必要不可欠です。プロジェクトの先頭に立って社内のさまざまな部門との調整役を担える能力だけでなく、ステークホルダーや、DX推進に関わる専門家とのコミュニケーションも密に取り、周囲を巻き込んでいく力が重要になります。
DX推進を成功させるためには、情報システム部門や経営層だけが積極的に取り組むのではなく、社内全体が一丸となって同じ方向を向きながら取り組むことが大切です。
現場の理解を得ないままDXを推進すると、非協力的な社員の反発に遭ったり、システムがうまく浸透しなかったりするおそれがあります。社内全体が一丸となってDXを進めることで、従業員同士の熱量の差を縮めるとともに、認識違いを防止して現場の反対を招きにくくする効果が期待できます。
好奇心や主体性
DXを成功に導くためには、好奇心や主体性を持ったDX人材をプロジェクトに参画させる必要があります。日常業務のさまざまな場面で一歩立ち止まり、抱いた疑問や見つけた課題を自ら主体的に解決しようと考えられる人材でなければ、DX推進プロジェクトを成功に導くことは難しいためです。
日頃から好奇心を持って業務に取り組める人材は、課題に対する解決策のアイディアを積極的に考案し、実際に実践してみようという意識を持ちやすい傾向にあります。これは、DX化の実現にとって重要なマインドセットです。
また、変化の激しいITトレンドを把握し、最新のデジタル技術を押さえておくためには、ITに興味を持って学び続けられる意識も必要不可欠です。
課題設定力
そもそもDXを推進する目的は、企業によって大きく異なります。そのため、DX人材は自社の現状課題を見極めたうえで、適切な課題を設定するための「課題設定力」が求められます。
自社が解決しなければならない課題がどこにあるのかを見極められれば、解決のために必要なデジタル技術が明確になり、その後のDX推進フローも明らかになります。課題がはっきりしないままDXを推進しようとすると、巷で効果が高いと言われているシステムをやみくもに導入してしまい、コストだけがかかって十分な効果が表れないなどの失敗につながる可能性があるため注意が必要です。
現場で活躍できるDX人材になるためには、自社の現状の業務を俯瞰的に見渡し、些細な疑問を持つことができる観察力なども重要になります。
合理的な発想力
合理的な発想力もDX人材にとって重要な能力のひとつです。日常業務として当たり前のように行われていることであっても、あらためて見直してみると、実は非合理的な業務フローが習慣化しているケースはよくあります。当たり前になっている習慣を見つめ直し、非合理的な要素を発見・改善できる能力はDX推進を成功させるために大切です。
また、DX推進のための施策は、実行後すぐに成果が現れるとは限りません。最初に打ち出した施策が十分な成果をもたらさなかった場合、速やかに改善点を見つけ出し、改善施策を実行する合理性を持つこともDX人材にとっては重要です。
「当たり前を疑うこと」が、DX人材には求められているといえるでしょう。
DX人材の採用・育成についての課題を解決するには?
DX人材を確保する方法には、外部から新たな人材を採用する方法と、自社内でDX人材を育成する方法の主に2通りがあります。
外部から新たな人材を採用する方法には、DX推進のための十分な知識・スキルを持った即戦力を確保できるというメリットがあります。今すぐにDX推進を始めたい企業にとっては、外部からの人材確保が向いているでしょう。ただし、採用・委託コストがかかる点や、自社の製品・サービス・組織に対する理解度が低い点はデメリットです。
自社内でDX人材を育成する方法は、自社の製品やサービスや組織を深く理解できているため、デジタル技術と製品やサービスのシナジーを生み出す効果的なシステム提案や導入を実現しやすいというメリットがあります。また、社内のコミュニケーションが比較的容易であり、部門間の連携を行いやすい点も魅力です。一方で、育成のための時間がかかり、すぐにDX化に取りかかれない点はデメリットといえるでしょう。
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