DX待ったなし!プロに丸投げせず、自社人材を育成する選択で組織力が向上
~並走型支援で全職員がデジタルマーケティングに開眼~
古くから「熊野信仰」が受け継がれ、世界遺産が日常の風景の中にある和歌山県新宮市。このエリア唯一の地域金融機関として、百余年にわたり地域経済の成長・活性化に寄与しているのが、新宮信用金庫です。2021(令和3)年より、「長期3か年経営計画 NEXT STAGE~100年の感謝、想いをかたちに未来を創る~」をスタート。デジタル技術を活⽤したお客様サービスの向上を一つの柱とし、目標実現のために、シナジーマーケティング(以下、シナジー)のDX BOOSTER(以下、DXB)による「並走型支援」を採用されました。DXB選択の経緯とその効果について、弊社担当者を交えてプロジェクトメンバーの皆様にお話しいただきました。
※経営・組織の課題、地域創生におけるDX推進の意義や効果の詳細はこちら を御覧ください。
写真右より
⼝地 耕司 氏
新宮信用金庫 常勤理事 総務部長
和平 幸勝 氏
新宮信用金庫 常務理事 業務部長
須川 恵右 氏
新宮信用金庫 業務部 主任
前⼭ 和輝 氏
新宮信用金庫 業務部 課長代理
足立 龍
シナジーマーケティング株式会社 DX事業部 DXBグループ 営業
※部署名・役職は取材当時(2024年6月)のものです
DX待ったなし!「何からどう手をつければいいのか?」に道筋をつける
足立 新宮信用金庫様との出会いは、展示会でしたね。
口地氏 金融ITフェア(展示会)での出会いがきっかけです。デジタル化への対応が急務であることは自覚していましたので、この領域の責任者として「ともかく情報収集しよう」と出向き、シナジーさんの存在を知りました。信用金庫のビジネススタイルは、地元密着かつ「Face to Face」の接点が大前提ですが、コロナ禍で状況が一変し、必ずしも対面が喜ばれなくなりました。対面できない状況下でも、情報や接点が欲しいというニーズはあり、デジタルマーケティングの必要性をいっそう感じたのです。思いつくのはWebサイトを変えることぐらいで、それすらも何をどう変えたらいいのかが分かりません。「デジタル化の課題があることは自覚しているが、いったい何からどう始めたらいいの?」と、わらにもすがる思いでシナジーさんに率直に悩みを伝えたことを覚えています。
和平氏 新宮信用金庫は、2021年4月に「長期3か年経営計画」を策定しました。その中で、「デジタル技術を活⽤したお客様サービスの向上」、「デジタルマーケティング推進による非対面チャネルの強化」が明記され、デジタル化への着手が待ったなしとなりました。デジタル化には2面あり、一つは我々自身の業務改善を主目的とするもの、もう一つはお客様を支援するためのデジタル化です。いずれにしても、自力で進むにはあまりにも難しい旅路であり、プロの協力なしには目標達成は難しいと考えていたところ、シナジーさんと出会い、解決への糸口をつかんだような気持ちでした。
ありたい姿と現状のギャップを認識し、課題を整理。自走を目指した並走型が決め手に
足立 「目指したいところ」はどこか、それに対して今「自分たちがいる場所」はどこか。そのギャップを確認したうえでやるべきことをピックアップし、優先順位をつけましょう、とご提案しました。具体的には、Webサイトの現状を定量的に「見える化」し、理想とのギャップがどの程度あるのかを可視化して整理しました。この時点で弊社は、並走型支援のDXBが新宮信用金庫様へのご支援に合うのではないかと考えていました。
口地氏 「今」の課題解決のために、刹那的にプロに施策を丸投げすることは簡単ですが、時間がたてば結局また同じ状況になります。足立さんから、「それじゃ意味がありません。自走できるまで伴走しますから、デジタル人材を育てましょう」と提案されてとても驚きましたが、腑に落ちました。地方の金融機関でデジタル人材を採用するのは、容易ではありません。ましてや職員をデジタル人材に育てるなど、自分たちにはできません。シナジーさんからの提案に「そんなことができるの?」と思いつつ、職員がデジタルに強くなり課題を解決できるなら!と気持ちが前のめりになりました。
足立 最初のWebサイト分析で、個人向けローンのお客様を「新規」で獲得したいという理想に対し、実際のアクセスのほとんどがインターネットバンキングの利用者だったことがわかりました。「新規」につながる潜在顧客にアクセスしてほしいとお伺いしていましたが、その戦略が全くなかったのです。また、Webサイトは「情報発信」と「計測環境(お客様行動の分析)」の2軸が重要です。計測環境がなかったのでまずそこからスタートしましたね。
前山氏 Webサイトの更新は業務の一環でしたが、それまで「分析」するという意識がありませんでした。まずGoogle Analytics(以下、GA)の見方を教わり、Webサイトへの流入状況やユーザーの行動履歴を知って、非常に衝撃を受けました。
須川氏 プロジェクトメンバーにアサインされ、最初は「分析?どうするの?」と戸惑いましたが、GAでWebサイト内のユーザーの行動が見えるようになったら発見と驚きの連続で、面白くてのめりこみました。
自分たちの意志でWebサイト改修を決断、改善すべき点を明確にして設計
口地氏 Webサイトの分析から、我々が伝えたい情報とユーザーが欲しい情報はまったく違うことが分かりました。ずいぶん昔に作ったWebサイトなので、見た目も使い勝手も悪く、目的に合致したサイトに作り替える必要性を痛感しました。シナジーさんに入ってもらって、もやもやしていた霧が晴れ、課題解決のイメージが見えてきました。
前山氏 DXBの並走支援中に見えてきた課題に対し、私たちで旧サイトを修正してみましたが、PDCAを回しても状況は全然変わりません。小手先の施策では効果が出ないと分かり、「個人ローンが申し込みやすい」サイトへと、全面的なリニューアルが必要だと思うようになりましたね。
須川氏 旧サイトが作られた当時は、Webサイトから個人ローンの申し込みを受け付けるなど、想定していません。構造的にも古く、申し込みフローを無理に後付けしたので導線もめちゃめちゃで、新たに作り直すしかないと、プロジェクトチーム全員の考えが一致しました。
足立 私たちは、Webサイトのリニューアルを前提にDXBの提供を始めたわけではありません。ただ、GAで分析して旧サイトの課題は明らかでしたので、サイト設計は一緒に考えました。その先については、新宮信用金庫様自身で意思決定してほしいと思っていました。
口地氏 シナジーさんには当金庫の課題を理解していただき、すでに信頼感がありましたので、あえてWeb制作だけ他社に分離して発注することはなかろうと判断し、Web改修も指名でお願いしました。
足立 準備から構築まで約1年を経て、リニューアルサイトが2024年4月に公開されました。新しいWebサイトへの感想は耳にされましたか?
須川氏 公開したばかりでお客様からの評価はまだ分かりませんが、職員からは「見やすくなった」「個人ローンを勧めやすくなる」と評判は上々です。デザインも一新され、「若年層にも見てもらえるサイトになった」との声もありました。
口地氏 今だからいいますが、実は私も旧サイトで個人ローンの申し込みを試して、迷子になりました(笑)。リニューアルで導線が整えられ、迷うことなくゴールまでたどり着けるようになり、ホッとしています。とはいえ、作って終わりではなく、これからが本番です。目的に対して常に考えチューンアップする、Web関連業務は従来の「更新作業」から「戦略業務」に変わりました。
和平氏 窓口の職員も個人向けローンをご案内する機会が増え、積極的にWebサイトにアクセスするようになりました。サイトリニューアルは、間違いなく当金庫内に新しい風を吹かせていると感じています。
ブレることがなかった「道は厳しくとも“自走”できるまで並走する」姿勢
口地氏 DXBがスタートして約3年、メンバーの意識が明らかに変わりました。並走型支援は、我々に「考える」習慣づけをする支援で、タフでしたが非常に力がつきました。
足立 DXBではまず、GAの見方や分析法、考え方(考察)など、普段シナジーが行っている業務をマニュアル化し、フォーマットに指定部分の数値を入れて気づきを記録してもらう、というできるだけ負荷がかからない形で、毎月宿題の提出をお願いしました。とはいえ、前山さんたちは初めて触れる領域です。数値を入れるだけならともかく、考察するプロセスはハードルが高かったかもしれません。
前山氏 最初は、「難しいなぁ」と抵抗感がありました。正直にいえば、日常業務と並行して毎月のサイト分析の課題をこなすのは大変でしたが、視野が広がったのは事実です。たまに「これでいいや」と、提出してしまうこともありましたが……。
足立 「定例会でディスカッションしたことを深堀して、データを見てください!」と、少々厳しめに再提出をお願いしたこともありました(笑) 。DXBは一方的なレクチャースタイルではありません。月に一度の定例会はディスカッションとワークが中心で、お互いによい緊張感の中で対話ができました。定例会以外にも、分科会を開いてフォローすることもありました。皆さまのリテラシーが上がるにつれ、私たちが求めるレベルも上がり、新宮信用金庫の成長のために!と、つい力が入ったかもしれません(笑)。
口地氏 我々も当初はどこかで、「できない部分は最終的にシナジーさんが巻き取ってくれるだろう」などと甘えた気持ちがありましたが、許されませんでした(笑)。スパルタでしたが、親身さは伝わります。道は厳しくとも自走できるまで並走する、という目標に向かうスタイルはブレませんでした。
足立 皆さまの熱量の変化を感じたからです。業務受託はもちろんできますが、企業側のリテラシーが同じレベルでないと、実りある成果を上げることはできません。私たちがDXBを推進している理由はここにあります。企業の担当者が、自分たちでデジタルマーケティングの目的と施策を考え、PDCAを回せるレベルまでリテラシーを高め、DX人材を育成し企業の力を上げること。そのうえで自走できれば素晴らしいですし、受託するにしても同じ目線でゴールを目指したい。「よく分からない」からと制作会社に丸投げした結果、望む成果を上げられなければ、お互いにとって不幸です。
須川氏 分析してWebサイトの課題を見つけ解決法を考える、難しいけれどゲームを楽しむ感覚で取り組めました。並走してもらえていたので、壁にぶつかるたびに相談してヒントをもらいました。他の金融機関のWebサイトもよく見るようになりました。「よくできているけれど更新頻度が低いな」など、着眼点が変わったと思います。
和平氏 職員をDX人材に育成するという提案は、とても理にかなっていました。「シナジーさん助けて、全部やってください!」と丸投げの構図だったら、当金庫の将来はとても難しいことになっていたでしょう。長期3か年計画を推進できるベースが整いました。職員が自ら考えて行動を起こせる力を備えたことを、経営側の一員として大変評価しています。
並走型支援を経て、DXをベースに地域に貢献できる新たな価値を発見
足立 私たちが感動したのは、デジタル施策の担当者だけでなく、全職員に対してDX研修を実施したい、さらにはお客様に向けても……、とご依頼があったことです。その狙いについて改めてお話しいただけますか?
和平氏 「デジタル人材の育成」という経過を自らたどり、この知識や自走力は全職員に必要なのではないか、ひいては我々のお客様の「次世代」を支援する施策をシナジーさんと一緒にやっていくべきではないか、と考えました。まず取引先のお客様向けにDXセミナーを開催。並行して、窓口業務を含めた全職員に集合研修(デジハイク)を実施しました。全職員がデジタルマーケティングに対して同じ目線に立つことが目的です。2023年からは、Face to Faceで営業活動をする渉外担当職員向けに、もう一歩踏み込んだ研修を実施しました。
足立 デジハイクは、講義とワークショップを組み合わせた「体験型」の集合研修ですが、渉外担当者への研修はもう少し深い内容です。「お取引先様にデジタルマーケティングの提案書を作る」ことをゴールに設定し、マーケティング概念を理解しそれぞれの企業が必要とするアイテムを考える力を、約1年かけて養う研修です。提案書作成が課題なので、セミスパルタですね(笑)。
和平氏 なぜマーケティングの提案書を作れるようにするのかといえば、お客様の経営課題に寄り添い、気づき、アイデアを提供できる渉外担当者になるためです。2024年からは、希望される取引先様向けに、デジハイクの提供も始めました。早くも成果は現れていて、シナジーさんにはお客様のご支援も依頼しているところです。取引先様のデジタルマーケティング支援は、当金庫の営業面でも非常に意義のある、新たな価値といえます。シナジーさんに育ててもらったからこそ、生まれた発想です。
全職員のデジタルリテラシーが底上げされ、組織力が向上
足立 DXBの導入による効果をどのように評価されているか、率直なところをお聞かせください。
前山氏 DXBの一連の活動で、他部署とのコミュニケーションが活発化しました。これは今までにはなかったことです。デジタル施策への意識や情報、課題感をみんなで共有できるようになり、よい流れができました。
和平氏 全職員、特に渉外(外勤)と窓口(内勤)が同じ目線、知識を持つことで、お客様に対して連携をとることができます。先の3か年計画では「組織力の向上」もテーマに掲げました。これまで並走してもらったすべてのプロジェクトが、一人一人のデジタルリテラシーの底上げと当金庫の組織全体の強化につながったと感じています。
口地氏 サイトをリニューアルしてここからが新たなスタートです。我々が望む結果が出ているかどうか、きちんと数値や導線を検証し、理想に向けて一歩ずつ前進していきたい。そのために力を貸していただきたいと、今年もシナジーさんに新たなプログラムで継続支援をお願いしました。
足立 お力になれているようで光栄です。今後も引き続きご支援できればと考えております!新宮信用金庫様が当初悩まれていたように、同じ課題感を持つ金融機関、企業様にDXB、あるいはシナジーを紹介するとしたら、どのような点をお勧めいただけますか?
口地氏 シナジーさんは信用金庫のことをよく理解していると思います。「こんなことをやりたい」とふわっとした内容を伝えても、一緒に課題を整理してくれる、そして実現できるよう形にしてくれる、心強いパートナーです。金融機関はそれぞれ課題や事情が異なると思いますが、それを踏まえてオリジナルのプログラムを提供してくれます。人的資源が限られている中、今いるメンバーをデジタルに強い人材に育てるDXBは、信用金庫の現状にフィットし、DX課題解決の近道になり得ると思います。
和平氏 いずれの地方金融機関も、デジタルに関する課題は共通するのではないでしょうか。デジタル人材を確保できない我々のような組織が、避けて通れないDXに立ち向かうのは、とてもチャレンジングな課題です。今いる職員をデジタル人材として育成することは、組織を強くし、将来的に見ても絶対プラスになります。DXBで自分たちの職員を育成する方法は、理にかなっていてお勧めです。
足立 身に余るお言葉、ありがとうございます。心強いパートナーとして見ていただき大変光栄です。最後に今後の展望についてお聞かせください。
和平氏 2021年4月からスタートした3か年計画では、デジタル活用と組織力向上にひとまず道筋がつけられました。2024年からスタートした次期3か年計画では、DXと意識改革を掲げています。いずれも、当金庫の3か年計画の「芯」となる部分を、シナジーさんに一緒に担っていただきますが、やり遂げるところまで支援の手を緩めない、心強いパートナーとして期待しています。よき相棒を得て、我々も目標を達成しなければならない。当金庫が目指すところ、目的を率直に話し合い、共有して、これからも一緒にやっていきましょう。よろしくお願いします。